大使のおしゃべり談話室 第8回 (12月19日)
年の瀬も迫ってまいりました。日本には雪が降っている地域も多いようですが、カンボジアは乾季であるのに例年より暑く、強烈な日射しの中の毎日です。そのカンボジアは大都市を中心に引き続き元気で活気が強まっています。アンコール遺跡への観光客も大幅に増えており、最近は私の知人や友人でカンボジアを訪れる人も多くうれしい悲鳴が出るほどです。今年最後の「おしゃべり」では、11月に行われたプノンペンでのサミットとまたまたODAの問題について触れてみたいと思います。
プノンペンで初の大型サミット
11月にプノンペンで開かれ小泉首相も参加されたASEAN関連サミットのことは覚えていますでしょうか。このサミットでは、東南アジア10カ国の大統領や首相による首脳会議に加えて、ASEANと日本、ASEANと中国、ASEANと韓国の3つのサミットを別々に行い、さらにASEANプラス日本、中国、韓国の13カ国サミットも同時に行われましたが、初めての試みとして、ASEANとインド、それからGMS(大メコン圏)といってメコン河流域の6カ国の間のサミットも併せて行い、もうひとつおまけで南アフリカのムベキ大統領もサミットに参加しました。こんな錯綜した形でたくさんのサミットが行われるのは類を見ませんが、そのサミットを内戦やその後の国内の不安定のため一番最後にASEANに加盟したカンボジアが議長国として大胆にも取り仕切って見事成功させました。
成功というのは、インドネシアやフィリピンなど東南アジアでのテロが懸念される中、幸いにも何事もなくサミットが終了したばかりでなく、会議の内容としても、ASEANと日本、ASEANと中国との近い将来に向けた具体的協力関係の枠組みやASEANの発展に向けた国際協力に合意が成立するなど多くの成果があったからです。日本がカンボジアに対する最大援助国であるお蔭もあって、私は日頃フンセン首相ともしばしば話をする機会があり、その手腕は熟知していますが、改めて「やはりこの人は只者ではない」との感を深めました。
カンボジアでは、本格的な復興の努力が始まってからまだ4年ぐらいしかたっていません。ポルポト時代を含めた内戦で国土と人材と国の諸制度が極端に破壊されたカンボジアは、一人当たりGDP、道路や下水道の整備率、乳幼児死亡率などの主要な指標を見ても隣の最貧国であるラオスよりもずっと遅れています。まだ国際会議場もなく、14カ国の首脳がいくつかのホテルに分宿しなければならないそんなカンボジアが、今回のサミットの準備を必死に進め、やや拙速気味にプノンペンの街をきれいにしましたが、その様子を見て、1964年の東京オリンピックをバネとして日本の経済成長が加速を始めたことを思い出しました。とはいえ、カンボジアが経済的に離陸するにはまだ何年もかかかり、当時の日本の比ではありません。日本のODAの削減はこの国の発展にとって大きな影響を及ぼし、「日本のODAを減らさないで下さい」とのフンセン首相の叫びも悲痛なほどです。
プノンペンでの日本とASEANの首脳会議を傍聴してひとつの感慨を覚えました。ASEANと日本との関係は来年で30年になりますが、1977年に当時の福田総理が日本はASEANと「心と心の関係」を構築したいという政策演説をして以来、日本は一貫して政治、経済それから文化の分野でも協力関係強化に努めてきました。そういう日本の姿勢や実績についてASEAN側はどのように受け止めているのかというのが私の関心事でもありますが、今回の首脳会議を聞いていると、ASEAN各国の首脳は一様に日本の政策を真摯に評価してくれました。特にASEANの中でもベテランのシンガポールのゴーチョクトン首相やマレーシアのマハティール首相なども日本とASEANの関係は近年質的に発展してきたと指摘して、この関係を「小泉ドクトリン」として一層進展させることへの期待を表明しました。30年に及ぶ日本のASEAN政策は間違っていなかったと意を強くした次第です。
ODA報道の誤解
また、ODAのことですみません。カンボジアにいるといかにODAがカンボジアにとって重要であり、カンボジアの人々がいかに日本のODAを期待しているかを痛感します。ところが、9月15日付の産経新聞紙上(第6ページ)で日本のカンボジアへの援助(ODA)の相当部分が無駄に使われているかのような報道がなされました。カンボジアの野党党首サム・レンシー氏の政治的批判を丸飲みにした記事で日本のODAに関しては多くの点で根拠がなく、極めて心外なのでここに実状を説明したいと思います。
まず、記事の見出しは、「巨額のODA『17年間の真実』」となっていますが、フン・セン首相が政権について17年間、巨額のODAが各国から投入されてそれが汚職の対象になっているとの趣旨の批判です。しかし、そもそもカンボジアが和平を達成する1990年代前半までの間は国内の戦闘が続いており、主要な外国がカンボジア国内の各勢力を支援したりしていましたのでその中には軍事支援も多く、いわゆるODAとは性格が異なります。カンボジアの復興のためにODAが入り始めたのは、主として国連暫定統治機構を率いたあの日本人の明石さんが国連の監視下での選挙を実施した1993年以降ですので、高々10年なのです。「17年間」というのは誤解を与えます。
フンセン政権の汚職問題に関してはカンボジアの内外から批判はあるのは事実ですが、毎年カンボジアのへの援助を話し合う国際会議の中で、日本を含め援助をする国や国際機関がこの国の政策を種々審査し、汚職のない正しい政治を行うように強く勧告しています。即ち、様々の角度からカンボジア政府が正しい政治を行うよう、ある意味で国際的に「監視」しながら、援助の意図を表明していますが、最近の傾向はこうした国際社会全体としては、フンセン首相が多くの分野で改革を進め、遅れや不十分な点はあるももの概ね正しい方向で努力していることを評価して、また、貧困削減に向けた援助の必要性を考慮して、むしろ援助は増える傾向にあります。サム・レンシー氏はこうした中で野党党首として批判をしているわけです。
第2に、この記事を書いた古森記者は、サム・レンシー氏が17年が過ぎても国民の生活は少しもよくならないどころか悪化していると指摘しているとして、それを根拠に「日本のODAは何のためだったのか」と問題を提起しています。この点も間違っています。
例えば、国連開発計画(UNDP)の報告書によりますと、1992年から1999年の間に、出生時平均余命は、50.4年から56.4年に伸び、15歳以上の成人識字率は37.8%から68.2%に大幅に改善、乳幼児死亡率は1000人当たり117人から86人に減少、5歳未満の児童の死亡率も1000人当たり185人から122人に改善しています。これらの統計から、国民の生活が改善していることがわかり、また、カンボジア自身が貧困に対応する十分な予算などがない中で日本をはじめとする国際社会の援助が事態の改善に大きな貢献をしていることは疑いを入れません。日本のODAは確実にカンボジア国民の生活改善に寄与しており、また、実際この国の官民から日常的に深く感謝されています。
この記事はさらにサム・レンシー氏のことばを引用して、「日本などからのODAは、その資金をもっとも強く必要とする当事者に渡らねばなりません。だが現実には途中のプロセスで多くの部分がフン・セン政権下の政治家や官僚のポケットに入ってしまいます」として、監視を強化するよう主張しています。これも大きな誤解です。日本は過去何十年間の援助政策の中で、ODAが無駄に使われないよう、また、汚職につながらないよう、様々の努力をしていろいろなシステムを作り上げてきています。完璧に汚職を防ぐことは出来なかったかも知れませんが、今は相当透明性のあるやり方で援助を実施しております。今日大部分の日本の援助は公正に運用されていることを確信しています。カンボジアでも日本の援助資金が有力者のポケットに入らないよう、現物支給方式をとったり資金の見積もり、資金管理、支払い、受注手続きなどの各プロセスで厳正なチェックや審査、事前事後の鑑査を実施するよう努力ており、日本の援助は本来の目的に使われていることははっきりしています。最近もカンボジアにも多くの民間人を含めたODAモニターや評価チームが来て、援助案件が公正に運用されてカンボジア官民の高い評価を得ていることをも見てもらっています。
サム・レンシー氏は野党党首としていつも政府批判を繰り返しています。先般パーティの席上で同氏にあったので、あの記事は間違っているとして強く反論しましたが、あれこれ言って去っていったので、後日改めて食事をしながら、じっくり説明をしました。上に述べたようなことをあげて一所懸命説明したところ、サム・レンシーさんは、「国民の生活が改善しないと言ったのは相対的な意味であって、カンボジア人の生活は未だにアセアンの中でももっとも低いレベルなのだということを指摘したかったのだ」などと言い訳をしていましたが、日本の援助が有力者のポケットに入っているという主張をすることもなく、また、日本の援助がカンボジアに大いに役に立って感謝していることも言っていました。
野党党首の政治的発言を検証することなくそのまま報道している記者の姿勢は、世論を導くべき言論人として大いに問題です。カンボジアでは、大使館員や国際協力事業団(JICA)関係者もカンボジアのためになるよう良い援助を心がけて毎日大変努力していますし、NGOの中にも涙ぐましいほどの献身的行動をしている人たちが多いですが、こうした誤解を招く報道は大いに心外です。
ちょっと、おしゃべりが長くなりましたが、どうか良いお年をお迎えください。
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